令和6年度入学式式辞

令和6年度式辞


 今日の日を待っていたかのように桜が咲きました。 雪解けの山の麓にはウグイスのさえずりが響き、やわらかな 緑が広がり始めました。 ここ東松島市赤井の石巻西高等学校にも、いよいよ春が訪れました。
 ここに東松島市長渥美巌様PTA会長遠藤利文様をはじめ、多くのご来賓の皆様にご臨席賜り宮城県石巻西高等学校第四十回入学式を挙行できることを教職員一同、深く感謝申し上げます。
 石巻西高校第四十回生の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。

 

 入学に際して、これから二つの話をしたいと思います。まず一つ目は「学び」についてです。

 高校生となり新しい制服に身を包み石巻西高校の校門をくぐった気持ちはいかがですか。 ロイヤルブルーの制服に赤のネクタイ、とてもセンスのいいデザインだと思いませんか 。

 さて、皆さん は「 ネクタイ 」 の意味を考えたことはありますか 。マフラーと違い暖かいわけでもありません。無くても困りません 。よく考えると不思議な布ですね。さて、ネクタイはどこの国の服装なのか知っていますか。
 ネクタイとスーツは大英帝国の時代、つまりイギリスが世界中を植民地として支配していた時代の正装でした。起源はフランスの王室の服装だと云われています 。 格式 が高く、教養の高い人が着る服装でした。日本の岸田総理大臣もアメリカのバイデン大統領もロシアのプーチン大統領も中国の習近平国家主席もネクタイを締めていますね。ですから、今も首脳会談など公式な場で世界のリーダー達 のスタイルなのです。 君たちは石巻に住んでいる日本人なのですが、 実はイギリスの文化を纏っているのです。
 それでは、小学校は6年、中学は3年、高等学校も3年という理由を知っていますか。これはどこの国の教育と同じだと思いますか。
 これは明治時代の日本政府の役人がフランスの教育制度を真似て明治6年に日本に導入した「学制」という制度によるものです 。フランスは小学校5年 、中学校4年であり少し日本とは 違うのですが 。
 実は、目の前にあることの全ては 、過去に誰かが始めたことなのです。高等学校という制度や入学式という儀式も、私達の生活とそのルールの全てに決まりがあります。
 その先人達の英知を受け継ぐために人は学校というシステムを創りだしました 。 しかし、 先人達の知恵に頼るだけで は 、未来の問題に対応できるとは限りません 。 例えば今、日本 では 少子高齢化が 進んでおり止めることができません。 このままでは 生産・流通・消費の全てが縮小していき、日本という国自体が世界のトップランナーから後退していく可能性があります。
 それを避けるために、今、教育改革が進められています。これまでのような暗記中心の知識の教育ではなく、目の前にある課題を生徒自身が探し、その解決に向かい、どうすればいいのか仲間で対話し協力し行動する教育を行っています。
 本校で行っている 総合的な探究 がその活動となります。普段、見過ごしてしまっている、目の前にある課題を探し 、例えば地域の人口がなぜ減ってしまうのだろうとか、なぜゴミが落ちている場所があるのだろうとか、仲間と協力してその解決方法を考え実行する、本質的な学びです。東松島市、石巻地域にある課題を高校生の目線で探し 、行動を起こ すことが期待されています。地域の人たちにも協力して頂いています。
 高等学校は「 学び 」を通じて自分を成長させる場所です。先ほど「ネクタイ」や「学制」の話をしましたが、知らないことを知るのは楽しいものです。本来、学びは愉快なのです。難しければ難し いほど、理解できたときの快感は大きいものです。これから高等学校で本質的な学びの楽しさを味わって下さい 。

 さて、二つ目の話をします。友人についてです。今、皆さんは高校生となりましたが、これまでの小中学校の幼なじみの友人達とは離れて、高校で新たな人間関係を作っていくこととなります。これから新しい集団に加わることに不安もあるかと思います 。初対面の人に対してどう接していいか分からない、友達をつくるのは難しいと感じている人もいるのではないでしょうか。

 実は それが当たり前で多くの人がそう思っているものです 。 自分だけではありません。では、どうすればいいのでしょうか。
 心理学でヒトには返報性Reciprocationがあるとされています。
 それは、人から借りをつくるとお返しをしなくてはならないと思う心です 。誰かから何かを 頂いたら、もらったものを返さないと 無意識にせかされるような気持ちになります 。モノでも言葉でも気持ちでも同じです。
 初対面の人と仲良くなるには、最初に自分のことを教えるのです。中学校のこと 、住んでいる街のこと、家族やペットのこと、趣味や好きな食べ物、些細なこと何でもいいのです。誰もが教えてもらったら自分も教えたいと感じるのです。それが仲間づくりの第一歩です。
 その次に 、一緒に行動すること です。同じこと をして 、一緒に笑ったり一緒に考えたり一緒に汗を流すことで、友情は深まっていき ます 。
 高校時代の部活動の仲間は一生のものだと聴いたことはありませんか 。ぜひ、部活動で 、仲間と一緒に同じ目標に向 かい、頑張って下さい 。
 大人になっていくということは 、上手に人と付き合うことを覚えていくことです。 高校卒業後も、進学や就職で、そして転勤や転職で、一人で新たな集団に加わること の繰り返しが人生です。グローバル化が進む現代社会では、日本語以外で育った人と一緒になる機会もあるでしょう 。
 そこで、互いに話をせず意識しなければトラブルにはなりません。しかし、友達にもなれません。 コミュニケーション能力は現代社会に必須です。勉強よりも大切な力なのかもしれません 。


 さて、最後に保護者の皆様、ご子息ご息女の ご 入学おめでとうございます。 東日本大震災から13年がたちました 。当時、小さかった子どもたちを守り育てるのは大変だったと思います。 たいへんなご苦労 があったことと存じます。
 その大切な子どもたちを石巻西高校でお預かりいたします。本校にはとても優秀な教員スタッフが揃っております。普段は優しく寄り添い励ましながら、間違いについては毅然と正しつつ、子どもたちが大人になるよう 、責任を持って育ててい く所存です 。


 最後になりますが、石巻西高等学校第四十回生のみなさんの夢の実現に向けて、大いなる活躍を心から期待しまして式辞といたします。


令和6年4月8日
宮城県石巻西高等学校
校 長 若林 春日