令和5年度式辞
雪解け水が北上川をたたえ、冬枯れの大地には、ところどころで瑞々しい緑が芽吹き、木々の枝先に、これから咲くであろう花のつぼみが膨らみ始めました。いよいよ春が、この東松島市赤井に訪れようとしています。
ここに東松島市長 渥美巌様 PTA会長 遠藤利文様をはじめ、多くのご来賓の皆様にご臨席賜り、宮城県石巻西高等学校 第37回卒業式を挙行できることを、たいへん喜ばしく思います。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
令和5年度のはじめに、ようやくコロナウイルスの自粛期間が終了しました。君たちは最上級学年として、この年度を迎えました。校長として君たちを褒めたいのは、過去数年間続いたコロナウイルスの自粛期間で消えてしまった石巻西高の文化と伝統をとりもどしてくれたことです。
経験がない状況だったにも関わらず、3年生としてリーダーシップを発揮し、行事を復活させて、盛り上げてくれました。
これは西高ルネサンスですね。
4月には中庭で、有志による校歌練習が行われました。5月の運動会、8月の西翔祭、10月の球技大会は、いずれも3年生が中心となり行事を運営し大成功におさめました。さらに、この数年来、生徒会で話し合われてきた校則改正を成し遂げたのも3年生でした。
そして部活動では、石巻支部総合体育大会で女子ソフトテニス部団体 個人、男子バレーボール部、女子卓球部ダブルスで優勝、硬式野球部は東部地区予選を全勝で県大会出場を決め、他の部活動も上位入賞を果たすなど、石巻地域を代表する学校として活躍しました。さらに、宮城県総合体育大会では女子弓道部が団体で3位入賞を果たしました。また、文化部の活躍も県下でも高く評価されました。これからは後輩達が君たちの創り上げた新たな伝統をつないでいくことでしょう。
世界史の授業でルネサンスについて学びましたね。どういう意義なのか、思い出してください。
過去に大繁栄したローマ帝国の時代には、今よりも素晴らしい文化があり、そのレベルまで再び高めようという考えです。実際にルネサンスにより文化が大きく進歩しました。それまで地面は平らであると信じられていました。ルネサンス時代に地球は丸いということが分かり、大航海時代として新大陸が発見されました。アメリカ大陸の発見ですね。ヨーロッパ人が世界を支配する植民地時代になり、2つの世界大戦を経て、現代へと続いてきました。今さかんにいわれているグローバル化、つまり、世界が一つにつながっていくことはルネサンスから始まったのです。そう西高ルネサンス。今年、そして来年とコロナ前よりも盛り上がっていくと思います。
さて、これから卒業生の皆さんに「命」についてお話ししたいと思います。1年前に私は石巻西高校に赴任しました。3年生になったばかりの君たちに私が 「悪性リンパ腫」という病気であることを伝え4月すぐに入院しました。そして抗がん剤の治療が始まりました。副作用が無ければいいと思ったのですが、やはり髪の毛が抜けてしまいました。毎日、鏡を見るのが嫌でした。家から外に出るときには帽子をかぶって頭を隠していました。学校でも帽子をかぶっていようかとも思ったのですが、家にいるときの家族と同様、皆さんにも隠さない方がいいと思いそのままで過ごすことにしました。
というのも「悪性リンパ腫」を検索すれば分かるのですが、5年生存率が70%とされています。もしものことも考えられるので、変に隠していれば混乱すると思ったからです。正直が一番だと思いました。
その後、廊下で講堂で校長室で、君たちから元気を頂きました。一つ教えておきたいのは弱っている人は、笑顔一つで救われるということです。たぶん、君たちの身近な人にもいるはずです。歳をとっていたり、病気だったり、弱っている人がいます。挨拶や笑顔がどれだけ人の心に響くのか。恥ずかしながら、自分自身、若かった頃、元気だった頃には気づかなかったことです。
若い君たちに伝えておきます。君たちの若さが元気な姿がまわりにいい影響を与えています。自分よりも年上の人を助けています。覚えておいてください。
さて、私の病気の話をしましたが、人生で最高の幸せについて話をします。
皆さんに質問です。次の場面はどんな時だと思いますか?
人が集まっています。その真ん中で一人だけ泣いています。まわりの人は皆それを見て喜んでいます。とても幸せな場面です。どのような場面でしょうか?
それは、皆さんが生まれた時です。そう、人間にとって最大の喜びとは子どもが生まれた時です。そして、ここまで育ててこられた保護者の皆様、本当におめでとうございます。
ここで保護者の皆様にお話をしたいと思います。高等学校を卒業するということは人生の一つの区切りとなります。3月11日には、東日本大震災から13年となります。今日、卒業を迎える子ども達がまだ5歳の頃かと思います。とても大変な時期の子育てだったと思います。本当にお疲れ様でした。
それから13年間、子ども達は石巻地域の復興とともに育ってきました。道路も町並みも新しくなっていくのと共に子ども達も大きく育ちました。
高校生になり思春期を迎え親離れが始まり、親と子の関係はいつも順調なことばかりではなかったかと思います。甘えがあったり、ぶつかったり、いろいろなことがあったと思います。
ここでお伝えしたいことは、学校では、皆様のお子様は、石巻西高校の生徒として、本当に優しい人間に成長しているということです。子は親の鏡といいますが、このような子ども達に育てた保護者の皆様は本当に素晴らしいです。そして、お疲れ様でした。
そして、私達、石巻西高等学校の教師も生徒達を丁寧に育てて参りました。
この地域の人々が思っている石巻西高のイメージ、いわば、西高生のブランドは、「優しさの西高生」なのではないでしょうか。私が病気になり、いつも感じていたことです。この人を思いやることができる人間性は、現代社会を生きる上でとても大切なことです。
これからの日本はグローバル化とボーダーレス化が進み、ますます多様性のある社会となっていきます。そこで求められるのは、インクルーシブな行動ができる人です。インクルーシブとは簡単にいうと「誰一人取り残さない」という意味です。
人に優しくする、人を許すことを、「寛容」といいます。寛容の心は教育でしか育てられません。
私は理科生物の教師なので生物学的な話をします。ヒトは群れをつくる動物です。自分の縄張りをつくる動物です。気にくわないという感情は根源的なものです。ですので、寛容の心は教育でしか身につきません。ご家庭での教育と、石巻西高校での教育の両方で「優しさの西高生」が育てられたのだと思っております。このような卒業生を送り出すことは、校長として誇りに思っております。
今、東松島市 石巻市 女川町、そして宮城県全体でも急速な少子高齢化が進んでいます。
美しい空、美しい山、美しい海がある故郷、素晴らしい石巻地域の未来を、そして日本の未来を卒業生の皆さんに託そうとしているのが、ここにいる大人すべての願いです。
終わりに、宮城県 石巻西 高等学校159名の卒業生の皆さん一人ひとりが、人に対して優しく、誰からも信頼される人生を歩み、その前途が洋々たることを願って、式辞といたします。
令和6年3月1日
宮城県石巻西高等学校 校長 若林春日
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