令和5年度入学式式辞

 令和5年度式辞

 雪解けの水をたたえた北上川に、暖かな南風が吹く季節となりました。ここ石巻西高等学校でも緑が芽吹き、桜も満開となりました。本日はPTA会長の遠藤利文様をはじめ多くのご来賓の皆様にご臨席賜り、入学式を挙行できることを職員一同、深く感謝申し上げます。

 新入生の皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。高校生になった気持ちはどうですか。新しい制服に袖を通し、自分が一回り大きくなったような新鮮で嬉しい気持ちなのではないでしょうか。義務教育が終わりいよいよ高校生になりました。さて、君達に質問です。義務教育の義務というのは誰に義務があるのか知っていますか。少し考えてみてください。

 実は、生徒には教育を受ける権利があるのであって、教育を受けさせる義務は親にあるのです。その義務教育を終えた保護者の皆さんにお話ししたいことがあります。子供達は15才となりました。振り返ると、12年前に東日本大震災が発生しました。保護者の皆さんは、当時 3歳の子供を12年間、育てて参りました。いろいろな事があったと思います。そして今日、高校生となりました。本当におめでとうございます。

 昔から子は宝と申しますが、ここにいる子供達は、間違いなく皆様の宝物だと思います。その宝物を石巻西高校で責任を持って育てたいと思います。3年後には一回りも二回りも大きくなって、この地域の宝、石巻の宝として自立させたいのが、校長としての私の思いです。

 さて、新入生の皆さん、自分が宝と言われても、と戸惑うかもしれませんが、石巻の人たちは石巻で生まれ育った子供達に、特別な思いを持っています。震災後、被災地では予想以上に少子高齢化が進んでいます。街中でも郊外でも若者を見かけることが、少なくなっています。この地で育った若者は大人から期待されていることを知っていて下さい。

 さて、新入生の皆さん、石巻西高で行われている、街ライブラリー、街ミッション、街クエスト、について聞いたことがありますか。

 本校の1年生は、5、6人のグループになって石巻の街に出ていろいろな人の話を聞きに行きます。地域の大人が働いている仕事を見せてもらったり、老人からお話を聴いたり、大学に訪問したりします。

 そして、高校生として課題を見つけ、より良くなることを考え、自ら実践しようとする探究活動を行っています。英語、数学、国語の勉強とは違う、とてもやりがいのある学習です。楽しみにしていてください。

 君達は、義務教育までは親から、面倒を見てもらう、大人から助けてもらう立場でした。高校生になると、だんだん、大人を助けてあげる立場になってきます。やがて、社会を支える一員となっていきます。それを自立と言います。高校生は人生の中で最も成長する時期です。今、心身を鍛えておくことが、自分にとって、地域にとって、プラスになることは間違いありません。勉強と部活動に一生懸命取り組んでください。

 そしてもう一つお願いがあります。今ここには様々な中学校の出身者が集まっています。まだ、互いによく知らない同士だと思います。これから160人全員がゆるくつながって欲しいと思っています。卒業してからも、一生つながる石巻西高校の同級生です。大人になって同じ高校の誰かが活躍していることがわかると、自分も嬉しくなるものです。早速、今日からお互いに話しかけてください。もし、誰からも話しかけられていない人を見掛ければ、勇気をもって話しかけてあげてください。私はそのような勇気がある人が好きです。

 では、友人をつくるために何をすればいいか知っていますか。自分のことを教えるのです。名前、出身中、部活、好きなこと....なんでもいいのです。人は教えてもらったら、自分も教えなくては思うのです。

 「自己開示の返報性」といいます。石巻西高で、ゆるくみんなとつながり、その中で一生の友を見つけて下さい。

 高校生活で一番大切なのは、人から学ぶことです。先生から学ぶことは大切ですが、先輩や友人から学ぶことも大切です。「学び」というのは勉強だけではありません。考え方であったり、振る舞いであったり、あるいは趣味やファッションも他の人から学ぶものです。人は話をすることで、同じものに興味を持ったり、同じことをしてみたくなったりします。みんなと同じだと安心するのです。

これを「ハーディング現象」、日本語で言えば同調行動といいます。実は大人になっても同じです。一生、人から学び続けるのが人生です。新入生の皆さん、これからできるだけ多くの人と関わり、多くを学びながら、生きていって欲しいと思います。

宮城県石巻西高等学校 校長 若林春日